代表者を退任したことになっているオーナーの退職金

2018年8月3日

役員に対して支給される退職金の損金算入が認められるには、支給された額が適正であることはもちろんですが、その役員が完全に退職するか実質的に一線を退いていることが前提になります。

法人税基本通達において、役員の分掌変更などによって常勤役員から非常勤役員になったり、取締役が監査役になるなど地位が大きく変わり、実質的に退職したと同様の状況なら打ち切り支給の役員退職金を損金算入することが認められています(法人税法基本通達9-2-32)。

 

法人税法基本通達9-2-23

(役員の分掌変更等の場合の退職給与)

法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、平23年課法2-17「十八」により改正)

(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。

(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。

(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

 

ただし、この場合でも単に職制が変わっただけで、依然として代表権を有していたり、代表権はなくても実質的に経営の実権を握っているような場合には損金算入が認められていません。

通達では報酬が50%以下に減額した場合も役員退職金の損金参入を認めていますが、経営実権を握っているかどうかいう制限は設けられていません。どんな場合でも報酬さえ半額以下に減額させれば損金算入が認められるのかということになりますが、そうではありません。

前提として第一線を退いた結果として報酬が半額以下になったという条件が必要です。

たとえばオーナーである経営者が取引先とトラブルを起こし、責任を取る形で自分の妻や子供に代表権を譲った場合などが該当します。実際には裏で糸を引いて運営している場合は、たとえ報酬を半額以下にしたとしても、役員退職金を損金算入することは認められません。

つまり、経営の実権を握っている影のオーナーは、名目上どんな形をとろうとも役員退職金を損金算入することはできないわけです。

役員退職金を損金算入させたい場合は、実質的に経営権を譲って平取締役になり、報酬を半額以下にすればよいわけです。