【白夜行】東野圭吾 被害者の息子と容疑者の娘が織りなす不気味な物語 ドラマ化・映画化作品

ある殺人事件の被害者の息子・桐原亮司と容疑者の娘・西本雪穂。事件当時、小学生だった二人は別々の人生を歩んでいく。

華々しい道を歩む雪穂と暗い道を歩む亮司。19年の年月の中で、二人の周りでは恐ろしい事件が頻発していた。

亮司の父・桐原洋介が殺された事件を担当した刑事・笹垣が、雪穂に疑いをかけ、20年近く雪穂のことを探っていくことになる。

集英社『小説すばる』1997年1月号から1999年1月号に連載。

1999年8月に単行本として出版される。

2006年に山田孝之・綾瀬はるか共演によりテレビドラマ化、2011年には高良健吾・堀北真希共演により映画化された。

東野圭吾 作家紹介

1958年大阪生まれの日本を代表するミステリー作家。

1981年大阪府立大学電気工学科を卒業。

日本電装(現・デンソー)(株)に技術職として入社。

1985年に『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞。

1986年に退社して作家に専念。

1999年『秘密』で日本推理作家協会賞を受賞。

2006年『容疑者Xの献身』で第134回直木賞を受賞。

代表的な作品に加賀恭一郎シリーズとガリレオシリーズがある。

今回ご紹介する作品

書籍情報

題名白夜行
出版社集英社
発売2002/05/25
ISBN9784087474398

登場人物

桐原亮司殺された桐原洋介の息子。小さい頃から暗く沈んだ瞳に感情のない顔をしていた。学生時代には裏稼業に手を染め、頭が良く、ソフトウェアの知識はプロ級。
唐沢(西本)雪穂桐原洋介殺人事件の容疑者。並外れた美貌を持つ少女。才色兼備ゆえに妬みも多かったが、彼女にかかわる人は必ず不幸に陥っていた。
笹垣潤三大阪府警・捜査一課所属の刑事。亮司と雪穂の周りで起きる事件に疑いを持ち、二人を追い続けて行く。
古賀久志大阪府警・捜査一課所属の刑事。笹垣と組んで事件を捜査する。
桐原洋介質屋「きりはら」主人で亮司の父親。
桐原弥生子亮司の母。洋介の死後、質屋の経営に行き詰まるとともに喫茶店経営に失敗。スナックを開いて生計を立てている。
松浦勇「きりはら」店長。
西本文代雪穂の実の母。
唐沢礼子雪穂の親類。西本文代の死後に雪穂を養女として引き取る。作法を厳しく教えていく。
秋吉雄一亮司の中学時代の同級生。
菊池文彦亮司の中学時代の同級生。
藤村都子雪穂の中学時代の同級生。
川島(手塚)江利子中学からの雪穂の親友。
園村友彦亮司の高校時代からの同級生。
西口奈美江大手銀行員。
中道正晴大学生。雪穂の家庭教師。
篠塚一成大手製薬会社の御曹司。大学時代に雪穂とソシアルダンスに所属。
倉橋香苗ソシアルダンス部所属で一成の恋人。
高宮誠電気部品製造会社所属。ダンス部時代に知り合った雪穂と結婚。
三沢千都留派遣社員。誠に憧れを持っている。
中嶋弘恵亮司のPCショップで働いていた。
今枝直巳探偵事務所経営。
菅原絵里専門学校生。
栗原典子薬剤師。
篠塚康晴製薬会社常務。
篠塚美佳康晴の前妻の娘。

あらすじ

これは純愛なのか。はたまた稀代の悪女と哀れな男の物語なのか。東野圭吾氏の『白夜行』(集英社)は読む人によって様々な解釈ができる衝撃ミステリー。綾瀬はるか&山田孝之でドラマ化されたことでも知られるが、心に闇を抱えた男女の姿をおどろおどろしく描いたこの小説はミステリーファン必読の書といえるだろう。

物語の中心に横たわるのは、1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された殺人事件。疑わしい容疑者は複数挙がったが、決定打はなく、結局事件は迷宮入りしてしまう。事件当時、小学生だった、被害者の息子・桐原亮司と、容疑者の娘・西本雪穂はそれぞれ全く別の道を進んでいく。理知的な美貌を持つ雪穂は華々しい道、暗い眼をした亮司は暗い道…。しかし、2人の周囲には世にも恐ろしい事件が頻発していた。事件の真相を追ううちに見えてくる2人の関係。しかし、そこには確固たる証拠はない。そして、19年の時が経ったとき、2人にはどんな未来が待ち受けているのだろう。

この作品は文庫本で864ページにも及ぶ超大作。しかし、読者はその長さを感じる暇もないまま、いつのまにか不気味な物語世界に引きずり込まれてしまう。

この物語は決して明るくない。むしろ、終始、明かりのない夜道を歩かされているようなダークな雰囲気が漂っている。主人公である雪穂と亮司の心境は決して本人の口から語られず、実際には何があったかわからない。そこには周囲の人たちの憶測だけがある。しかし、どうしてだろう、その不気味さにどうしても惹かれてしまうのだ。真実を知りたいという好奇心がそうさせるのか。自分の中の仄暗い部分が物語と呼応するのか。誰をも信じることのない冷酷な男女の姿は怪しい光を放つ。

「人によっては、太陽がいっぱいの中を生き続けられる人がいる。ずっと真っ暗な深夜を生きていかなきゃならない人もいる。あたしはね、太陽の下を生きたことなんかないの。あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの」

高度経済成長、オイルショック、パソコン産業と新しい時代の幕開け、バブルとその崩壊…。昭和から平成までめまぐるしく時代が変化するなかで、雪穂と亮司、それぞれの物語が関係者の視点で語られる。2人が対面する場面は描かれないのに、どうしてその2人から強は絆を感じるのだろう。誰にも邪魔できない、誰にも理解し得ない領域に2人がいるように思わせるその筆力に圧倒される。

上品だが、隙のない身のこなし。理知的な顔だち。雪穂のアーモンド型の美しい瞳に射止められれば、私たちはたちまち身動きが取れなくなる。そんな彼女と、感情のないがらんどうの目をした亮司との間にあるものを愛と呼んで良いのか。

心を失った人間たちの悲劇が強く胸に突き刺さる。ひとときも目が離せないダークな絆の物語。こんなハラハラさせられるノンストップミステリーを読まない手はない。