美容室の面貸しは請負契約を結ぶべき

あまり聞きなれないですが、美容室における「面貸し」というものをご存知でしょうか?

自分以外の開業している美容室の設備を借りて、カットやカラーリングを行い、オーナーと取り決めた内容で売上の一部を支払う形態です。

面貸しは業務委託となるので、外注費として処理することになります。

面貸しで働いている本人とオーナーにとって、メリット・デメリットがあるのでご紹介します。

面貸し(請負契約)と雇用の違いは?

民法において、雇用と請負についての規定があります。

民法623条

(雇用)

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

民法632条

(請負)

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

雇用関係とは、雇用主と労働者の間に指揮命令関係があることを言います。そして、指揮命令により拘束された労働時間に対し、給与が支払われます。

雇用に対して、外注は委託された仕事を完成することにより、対価として報酬を受け取ります。

面貸しで働く美容師は、「事業者」となり、個人であれば所得税の申告義務が発生します。

ここで注意しなければならないのが、雇用関係があると認められると、請負でなく雇用とみなされてしまいます。

事業者の定義は、国税庁のタックスアンサーに解説があります。

No.6109 事業者とは

面貸しが請負契約であることを、契約書を交わしてはっきりさせておく必要があります。

また、消費税法では、請負についての通達があります。

消費税法基本通達1-1-1

(個人事業者と給与所得者の区分)

事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。

(1) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。

(2) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。

(3) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。

(4) 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。 

面貸しとして、請負契約である要件としては、下記のような契約内容となっていることが必要です。

1.オーナーとの請負契約上、請負人が、他の人へも外注することが可能であること。

2.仕事内容に関て、オーナーから指揮命令を受けないこと。

3.時間的拘束を受けないこと。

4.完成した仕事に対してしか報酬の請求ができないこと。

5.オーナーが購入している材料などを請負人が負担していること。

(材料などの負担は、売上歩合率での調整でも可能)

6.カットに用いる道具は、請負人が購入していること。

面貸しするオーナー側のメリット・デメリットは?

オーナーにとってのメリット

・直接雇用するわけではないので、労災保険や雇用保険、社会保険料などの負担がありません。

・外注費は、消費税の課税対象となります。したがって、消費税の仕入税額控除を受けることができるため、消費税が少なくなります。

・外注費は、所得税を徴収する必要がないので、事務が煩雑になりません。

・外注費は、給与ではないので年末調整をする必要はありません。

・歩合制により報酬を支払うので、お客さんがいないときの人件費を払う必要がありません。

・雇用しているわけでないので、人材教育に費用がかかりません。

オーナーにとってのデメリット

・税務署や労働基準監督署に対して、面貸しが請負契約であるということを証明できるように書類を整備しておく必要があります。

・従業員との雇用関係がなく、報酬が歩合制であるため、美容室を盛り立てたりしにくく、成果も上がりにくい。

・外注している美容師へのクレームによって、店舗イメージが悪化する恐れがある。

面貸しで働く美容師のメリット・デメリットは?

面貸しでの働く美容師のメリット

・来客があるときに対応ればよいので、完全予約制であれば、営業時間中ずっと拘束されることがない。

・報酬を事業所得として確定申告することによって、給与所得では経費とならないものも事業所得では経費とすることが出来る。

・設備を借りることができるので開業費用が必要ない。

・店舗の固定費を払う必要がないので、経営に対するリスクが少ない。

面貸しで働く美容師のデメリット

・毎年、売上と経費を集計して確定申告をしなければいけない。

・雇用ではないため、出産手当金などの保障がある社会保険に加入することができない。

・報酬が歩合制なので、毎月の収入が安定せず、失業したときに雇用保険など安定した給与保障がない。

・オーナーと歩合率交渉にあたって、どうしても弱い立場であるので納得いかない内容となることがある。

・請負契約であるため、突然の契約打ち切りの心配がある。

まとめ

雇用と請負の違いをしっかり理解した上で、「面貸し」という特殊な状況のメリット・デメリットを考慮して、自分に合った働く環境を見つける必要があります。